CO2排出量の算定は何のため? 中小製造業が知っておきたい排出係数と算定の基本
- CO2を算定したい
- SBT認証支援
- 外部認証を取得したい
- CO2の見える化をしたい
2026/07/16
脱炭素経営という言葉を耳にする機会は増えたものの、「まず何から始めればよいのか分からない」と感じている企業は少なくありません。特に中小製造業では、日々の生産活動を優先する中で、CO2排出量の算定まで手が回らないというケースも多いのではないでしょうか。
しかし、CO2排出量の算定は、特別な企業だけが取り組むものではありません。自社の電気・燃料の使用量を把握し、正しい排出係数を用いて排出量を計算することは、脱炭素経営の第一歩であり、エネルギーコスト削減や取引先からの要請対応にもつながる基本的な取り組みです。
この記事では、これからCO2算定に取り組む企業に向けて、算定の基本式、毎年確認すべき排出係数、実務でつまずきやすいポイントを分かりやすく解説します。
CO2排出量の算定は、脱炭素経営の「現状把握」から始まります
CO2排出量の算定とは、自社の事業活動によってどれだけの温室効果ガスが排出されているかを数値で把握することです。脱炭素経営というと、太陽光発電の導入や設備更新などの対策を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、最初に必要なのは「今、どこで、どれだけエネルギーを使っているのか」を把握することです。
業種によって、エネルギーを多く使う工程や設備は異なります。だからこそ、まずは自社全体のエネルギー使用量を整理し、排出量として見える形にすることが重要です。
算定結果は「環境対応」だけでなく、コスト削減の判断材料にもなります
CO2排出量は、電気や燃料の使用量と深く関係しています。そのため、排出量を算定すると、同時にエネルギーコストの大きい工程や設備も見えやすくなります。
たとえば、電力使用量が多い設備を特定できれば、運転方法の見直し、待機電力の削減、設備更新、省エネ補助金の活用といった次の検討につなげやすくなります。CO2算定は、単なる報告作業ではなく、経営改善の入口として活用できる取り組みなのです。
CO2排出量の基本式は「活動量 × 排出係数」です
CO2排出量の算定は、基本的には次の考え方で行います。
CO2排出量 = 活動量 × 排出係数
活動量とは、事業活動の規模を表す数値です。電気であれば使用量(kWh)、都市ガスであれば使用量(m3)、A重油や灯油であれば使用量(L)などが該当します。
排出係数とは、活動量1単位あたりに、どれだけCO2が排出されるかを示す数値です。
| エネルギー・活動の例 | 活動量の例 | 確認する主な資料 |
|---|---|---|
| 電気 | 月別・拠点別の電力使用量(kWh) | 電力会社の請求書、使用量データ、見える化データ |
| 都市ガス・LPガス | 使用量(m3、kgなど) | ガス会社の請求書、購買記録 |
| A重油・灯油・軽油など | 購入量・使用量(Lなど) | 燃料購入伝票、在庫・使用記録 |
| 廃棄物・輸送など | 処理量、輸送量、金額など | マニフェスト、物流データ、会計データ |
初めて算定する場合は、まずScope1(燃料の使用など、自社で直接排出するもの)とScope2(購入した電気・熱の使用に伴うもの)から整理するのが現実的です。
そのうえで、取引先からScope3への対応を求められる場合には、購入品、輸送、廃棄物などのサプライチェーン排出量へ段階的に広げていきます。
毎年のCO2算定では、その年に対応した排出係数の確認が必要です
CO2算定で特に注意したいのが、排出係数は固定値ではないという点です。
特に電気の排出係数は、電力会社や契約メニュー、年度によって変わるため、毎年の算定では、対象年度に対応した排出係数を確認する必要があります。
環境省の「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」ウェブサイトでは、算定方法・排出係数一覧や電気事業者別排出係数一覧が公開されています。電気事業者別排出係数は、国が公表する係数を用いて、電気使用に伴うCO2排出量を算定する際の基礎資料となります。
「前年と同じ係数」で計算すると、算定結果がずれることがあります
前年に作成した計算シートをそのまま使う場合は、排出係数まで前年のままになっていないか注意が必要です。使用量が同じでも、排出係数が変わればCO2排出量は変わります。
たとえば、電力使用量が100万kWhであっても、使用する排出係数が変われば、算定されるCO2排出量も変わります。毎年の算定では、使用量データだけでなく、どの年度・どの電気事業者・どの契約メニューの係数を使ったかを記録しておくことが大切です。
排出係数は、年末から翌年初にかけて公表・更新されることがあります
排出係数は、対象年度の実績などをもとに公表・更新されます。電気事業者別排出係数については、環境省・経済産業省が公表する資料を確認し、算定対象年度に対応した一覧を使用します。
実務上は、毎年12月頃から翌年初にかけて公開・更新状況を確認し、最新の一覧に差し替える運用にしておくと安心です。年度によって一部追加・修正が行われる場合もあるため、算定作業を始める前に、環境省サイトの更新日も確認しておきましょう。
中小製造業がCO2算定で最初に整理したいデータ
CO2算定を難しく感じる理由の一つは、最初から完璧な算定を目指してしまうことです。まずは、手元にあるデータから始めることが大切です。
- 拠点別・月別の電力使用量(kWh)
- 都市ガス、LPガス、A重油、灯油、軽油などの燃料使用量
- 主要設備や工程ごとの使用量が分かるデータ(分かる範囲で可)
- 電力会社名、契約メニュー、契約期間
- 算定に使用した排出係数の年度、出典、更新日
- 生産量、稼働時間、出荷量など、原単位分析に使えるデータ
特に製造業では、排出量の総量だけでなく、生産量あたりの排出量、いわゆる「CO2原単位」を見ることで、事業規模の変動を踏まえた改善状況を把握しやすくなります。
生産量が増えれば排出量の総量は増えることがありますが、原単位が改善していれば、省エネや生産効率向上の効果を説明しやすくなります。
見える化データがあると、削減余地も見えてきます
請求書ベースの使用量だけでもCO2算定は可能ですが、設備別・工程別の使用状況まで把握するには、時間や手間を要します。
より具体的な削減策につなげるためには、電力の見える化やエネルギー診断を通じて、どの設備が、どの時間帯に、どの程度エネルギーを使用しているのかを確認することが有効です。
ESJでは、製造業を中心に400件超のエネルギー診断実績があり、砕石業やリネンサプライ業など、エネルギー使用量が大きい現場の診断・改善提案にも対応しています。CO2算定を単なる集計で終わらせず、省エネ対策や設備更新、補助金活用にまでつなげる支援を行っています。
CO2算定は、サプライチェーンで選ばれる企業になるための基礎に
近年は、大企業だけでなく、その取引先である中小企業にも、CO2排出量の把握や削減計画の提出、準備、調査への対応を求める動きが広がっています。
自社が直接、法令上の報告義務の対象でなくても、取引先から「CO2排出量を教えてほしい」「削減目標はありますか」と確認される可能性は、数年前に比べて高まっています。
そのときに、少なくともScope1・Scope2の排出量を把握できていれば、急な取引先からの問い合わせにも対応できます。また、継続的に算定していれば、自社の削減努力や改善状況を数値で説明できるため、社内外での説得力が高まり、理解や協力も得やすくなります。
CO2算定は、すぐに売上へ直結する取り組みではないかもしれません。しかし、サプライチェーンで選ばれ続ける企業になるための「基本情報」として、早めに整備しておいて損のない取り組みです。
CO2算定は、中小企業版SBT認定取得の準備にもつながります
CO2排出量を継続的に算定しておくことは、将来的に中小企業版SBTの認定取得を検討する際にも役立ちます。
SBTは、企業が科学的根拠に基づいて温室効果ガスの削減目標を設定する世界的な取り組みです。自社の排出量を把握できていることが、削減目標の設定や認定取得に向けた申請準備の前提になります。
中小企業版SBTでは、Scope1・Scope2の排出量を対象として、基準年を設定したうえで削減目標を定めます。Scope3については目標設定は任意ですが、排出量を算定し、削減に取り組む意思を示すことが求められます。
日頃から電気・燃料の使用量、使用した排出係数、算定年度を整理しておくことで、申請時に必要な情報を確認しやすくなります。
基準年の排出量が、削減目標を考える土台になります
SBTの申請では、どの年を基準年にするかによって、2030年などの目標年に向けて必要となる削減量の見え方が変わります。
つまり、CO2算定は「現在の排出量を知るため」だけでなく、「どの水準から、どの程度削減していくのか」を判断するための土台にもなります。
基準年の排出量が曖昧なままでは、削減目標の妥当性や、達成に向けた対策を検討しにくくなります。毎年の算定結果を残しておくことで、通常操業時の排出量、すでに実施した省エネ対策の効果、生産量の変動なども踏まえながら、自社に合った基準年を検討しやすくなります。
毎年の算定は、SBT認定後の進捗管理にも役立ちます
SBTは、認定を取得して終わりではありません。削減目標に対して、自社の排出量がどのように推移しているかを継続的に確認し、必要に応じて対策を見直していくことが大切です。
そのため、CO2算定の仕組みを早めにつくっておくことは、SBT申請前の準備だけでなく、認定後の年次確認や取引先への説明にも役立ちます。
将来的にSBT認定取得を検討している企業ほど、まずはScope1・Scope2の算定を毎年継続できる状態にしておくことをおすすめします。
CO2算定でよくあるつまずきと注意点
使用する排出係数が分からない
電気は、契約している電気事業者や契約メニューによって係数が異なる場合があります。
環境省の電気事業者別排出係数一覧を確認し、該当する年度・事業者・メニューを確認します。判断に迷う場合は、根拠資料を残したうえで専門家に確認することをおすすめします。
月別・拠点別のデータがそろっていない
最初から完全なデータをそろえる必要はありません。
請求書、購買記録、管理台帳など、入手できる範囲から整理し、次年度以降にデータの取り方を改善しながら継続していくことが大切です。
算定しても、削減策に結びつかない
排出量の集計だけでは、どこから改善するべきなのかが分からず、削減が進まないというケースは多くあります。
設備別・工程別のエネルギー使用状況まで確認できると、対策を立てやすくなり、運用改善や設備更新などの優先順位も検討しやすくなります。
取引先に提出できる形に整えられるか不安
算定範囲、使用した排出係数、活動量データ、算定方法を整理しておくことで、取引先への説明がしやすくなります。
必要に応じて、算定結果の見せ方や削減計画の作成まで支援を受けることも有効です。
中小企業であれば、環境省のSHIFT事業や経済産業省の省エネ診断事業などを活用し、脱炭素化に向けた計画策定やエネルギー使用状況の見える化に関する支援を受けられる場合があります。
まずは「算定できる状態」をつくることから始めましょう
CO2算定は、難しい専門作業のように見えるかもしれません。しかし、第一歩はシンプルです。
自社の電気・燃料の使用量を集め、対象年度に対応した排出係数を確認し、活動量に掛け合わせることから始まります。
大切なのは、一度計算して終わりにするのではなく、毎年同じルールで継続的に確認できる状態をつくることです。そうすることで、排出量の増減、エネルギーコストの変化、削減対策の効果を把握し、社内外へ説明しやすくなります。
ESJでは、CO2排出量の算定支援だけでなく、エネルギー診断、設備更新計画、省エネ補助金申請支援、中小企業版SBT申請支援まで、企業の状況に合わせて段階的にサポートしています。
自社の算定方法に不安がある場合や、算定したデータの活用方法が分からない場合は、お気軽にご相談ください。
CO2算定を始めたい方へ
「排出係数の選び方が分からない」「取引先に提出できる算定結果を整えたい」「算定結果を中小企業版SBT申請や補助金活用につなげたい」
という企業様は、ESJの脱炭素診断、中小企業版SBT申請支援をご活用ください。
出典・参考資料
- 環境省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度|算定方法・排出係数一覧」
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/calc.html
- 環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「排出原単位データベース」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html
- 環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「排出量算定に関するガイドライン」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_04.html
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