LCA算定の精度を高める「見える化」とは? 中小製造業が製品別CO2排出量を把握する方法
- CO2を算定したい
- 先進的な技術、製品、制度情報を知りたい
- #CO2排出量算定
2026/08/17
取引先から製品ごとのCO2排出量を求められたものの、
「工場全体の電気使用量しか分からない」
「複数の製品を同じ設備でつくっているため、どう分ければよいか分からない」
と悩む中小製造業は少なくありません。
LCA(ライフサイクルアセスメント)やカーボンフットプリント(CFP)の算定では、原材料調達から製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルまでの環境負荷を対象とします。その中でも、自社で管理しやすく、改善にもつなげやすいのが「製造段階」のデータです。
製造ラインや設備ごとの稼働状況、電力・燃料の使用量を見える化すると、工場全体の使用量を売上高や生産量だけで一律に割り振る方法から一歩進み、実際の工程や稼働実態に沿った製品別排出量の算定がしやすくなります。
LCAとカーボンフットプリント(CFP)の基本
LCAは、製品・サービスのライフサイクル全体にわたる環境影響を評価する考え方です。ISO 14040では、目的・調査範囲の設定、インベントリ分析、影響評価、解釈という枠組みが示されています。
CFPは、LCAの考え方を用いて、製品やサービスのライフサイクルにおける温室効果ガス排出量をCO2換算で示すものです。経済産業省・環境省の「カーボンフットプリント ガイドライン」でも、製品単位でライフサイクル各段階の排出量を算定する考え方が整理されています。
製品別の排出量は「活動量×排出原単位」が基本
CO2排出量の基本的な算定方法は、電力使用量、燃料使用量、原材料使用量、輸送量などの「活動量」に、それぞれの「排出原単位」を掛け合わせる方法です。
ここで重要なのは、排出原単位だけでなく、活動量の把握方法です。工場全体の電気使用量は請求書で確認できても、どの製品・工程でどれだけ使ったかが分からなければ、生産量や稼働時間など、一定の基準を用いて製品ごとに電気使用量を振り分ける必要があります。
製品別CO2排出量の算定で起こりやすい3つの課題
1.工場全体のエネルギー使用量しか分からない
電力会社や燃料会社の請求書から工場全体の使用量は把握できても、生産設備、空調、コンプレッサー、ボイラーなどの内訳が分からないケースです。この状態では、製品ごとの製造負荷の違いを算定に反映しにくくなります。
2.複数製品が同じ設備・ラインを使用している
同じ加工機や生産ラインで複数の製品を製造している場合、設備のエネルギー使用量を各製品へ配分する必要があります。生産重量だけで配分すると、加工時間や設定温度、段取り回数などの違いを十分に反映できない場合があります。
3.待機・立ち上げ・不良・再加工の負荷が見えない
設備が動いていない時間にも待機電力が発生していたり、立ち上げ時に大きなエネルギーを使ったりすることがあります。不良品や再加工が発生すれば、良品1個あたりの排出量も増えますが、月次の総使用量だけでは原因を特定しにくいのが実情です。
見える化がLCA・CFP算定に有効な理由
理由1.工程・設備ごとの一次データを取得できる
分電盤や設備に計測器を設置し、電力・燃料使用量を時間帯別、工程別、設備別に把握すると、工場全体のデータよりも製造実態に近い一次データを得られます。LCA・CFP算定において一次データの範囲を広げることは、算定根拠の説明性を高めるうえで有効です。
理由2.製品への配賦方法を実態に近づけられる
製品別に直接計測できない場合でも、設備の稼働時間、生産数量、重量、加工回数、温度条件などを組み合わせることによって、単純に売上高や生産量の按分よりも、工程実態に沿った配賦ルールを検討できます。
※見える化を導入すれば、必ず製品別排出量を直接測定できるわけではありません。算定目的、システム境界、機能単位、配賦ルールを定め、継続して同じ条件で計算できる設計が必要です。
理由3.生産量の変動や設備状態を区別できる
月ごとのエネルギー使用量が増えたとき、それが増産によるものか、設備効率の悪化によるものかを区別できなければ、排出量の評価や改善判断を誤る可能性があります。稼働データとエネルギーデータを組み合わせることにより、「総量」だけでなく、製品1個、1kg、1ロットあたりの原単位を確認しやすくなります。
理由4.算定後の削減対策までつなげやすい
LCA・CFPは、数値を算定して終わりではありません。工程別の排出量が分かれば、負荷の大きい工程を特定し、待機時間の短縮、設定条件の見直し、生産計画の改善、高効率設備への更新など、具体的な対策の優先順位を検討することもできます。見える化は、算定精度の向上と省エネ改善を同じデータ基盤で進められる点に価値があります。
その他の見える化したデータ活用による効果は、こちらの記事でも解説しています。
見える化によって製品別排出量を算定する流れ
- 算定の目的と対象範囲を決める
取引先への回答、製品間比較、削減計画、CFP表示など、目的によって必要な精度や対象範囲は変わります。まず、対象製品、工場、工程、期間、機能単位を明確にします。 - 製造工程とエネルギーの流れを整理する
原材料の投入から完成品までの工程、使用設備、共用設備、補助設備を一覧化します。設備台帳や生産フロー図を作成すると、計測すべきポイントが整理しやすくなります。 - 計測ポイントと取得データを設計する
主要設備、ライン、分電盤、コンプレッサー、ボイラーなど、排出量への影響が大きく、改善余地が期待できる箇所を優先します。すべてを細かく測るのではなく、算定目的と費用対効果に合わせた設計が重要です。 - 製品別の配賦ルールを決める
直接計測できるデータと、稼働時間・生産量などで配賦するデータを分けます。配賦ルールは、選定理由を説明でき、毎年継続して利用できることが大切です。 - 原単位を確認し、改善に活用する
製品別・工程別の排出原単位を比較し、負荷の大きい工程や変動要因を確認します。対策実施後も同じ条件で計測することで、削減効果の確認や取引先への説明に活用できます。
見える化を導入するときの注意点
| 注意点 | 確認する内容 |
|---|---|
| 計測範囲を広げすぎない | 重要度の高い工程・設備から始め、算定目的に対して必要十分な粒度にします。 |
| 生産データと時刻を合わせる | エネルギーデータと生産数量、品種、稼働時間の記録時刻を合わせます。 |
| 共用設備の配賦方法を決める | 空調、コンプレッサー、ボイラーなどは、使用時間や負荷、床面積など合理的な基準を検討します。 |
| データ欠損・異常値を管理する | 通信停止、センサー故障、操業変更などを記録し、補完方法を決めます。 |
| 算定条件を文書化する | 対象範囲、排出係数、配賦ルール、除外項目、更新頻度を記録し、再現性を確保します。 |
中小製造業は「算定に必要な部分」から見える化を始める
LCA・CFP算定のために、最初から工場内の全設備を計測する必要はありません。主力製品や取引先から回答を求められている製品を対象に、排出量への寄与が大きい工程から計測する方法が現実的です。
例えば、電力使用量の大きい成形機や加工機、熱を使用する乾燥・洗浄工程、工場全体に供給するコンプレッサーやボイラーなどを優先し、既存の生産記録と組み合わせます。まずは代表的な製品で算定方法を確立し、必要に応じて対象製品を広げることで、運用の負担を抑えられます。
中小製造業の見える化導入を支援する、国や自治体の補助制度はこちらの記事で紹介しています。
ESJの見える化・エネルギー診断支援
エネルギーソリューションジャパン(ESJ)では、中小製造業を中心に、現場調査、設備リストの整理、計測ポイントの選定、データ収集・分析、運用改善、設備更新、補助金活用までを一貫して支援しています。
砕石、リネンサプライ、印刷、金属加工、樹脂成形など、業種ごとに異なる工程や設備特性を踏まえて、必要なデータの粒度と改善につながる計測方法を検討します。
単に数値を表示するだけでなく、
- どの工程に削減余地があるか
- 設備更新が必要か
- 製品別の原単位をどのように管理するか
まで整理することが、見える化を経営に活かすポイントです。
※LCA・CFPの算定結果は、対象範囲や算定ルールによって異なります。第三者検証や製品間比較、特定制度への申請を予定する場合は、該当するルール・ガイドラインに沿った追加対応が必要です。
まとめ:見える化は、製品別排出量の「根拠」と「削減策」を強くする
製造ラインや設備ごとの稼働状況とエネルギー使用量を見える化することにより、製造段階の一次データを増やし、製品別CO2排出量の配賦根拠を実態に近づけることが可能です。これにより、LCA・CFP算定の説明性を高めるだけでなく、排出量の大きい工程を特定し、具体的な省エネ・CO2削減対策へもつなげやすくなります。
「取引先から製品別排出量を求められている」「工場全体の使用量しか分からない」「どこまで計測すべきか判断できない」という場合は、対象製品と製造工程を整理するところから始めることが重要です。
製品別CO2排出量の算定や、工程・設備ごとの見える化をご検討の企業様は、
まずは対象製品や現在のデータ状況をお聞かせください。
参考資料・出典
- 経済産業省・環境省「カーボンフットプリント ガイドライン」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_footprint/pdf/20230526_3.pdf - 経済産業省「カーボンフットプリント ガイドライン(別冊)CFP実践ガイド」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_footprint/pdf/20230526_4.pdf - ISO 14040:2006 Environmental management — Life cycle assessment — Principles and framework
https://www.iso.org/standard/37456.html - 国立環境研究所 環境展望台「ライフサイクルアセスメント(LCA)」
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=57 - 環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「排出原単位データベース」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html - ESJ「設備ごとのエネルギー使用量を見える化する」
https://www.es-jpn.com/column/1626/ - ESJ「生産ライン・工程ごとの改善が原単位削減につながる」
https://www.es-jpn.com/column/1850/
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